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「滑り止め」大学でも必ず過去問演習をしよう
「滑り止め」という言葉の裏側にある、入試問題との対話
受験シーズンが深まるにつれ、受験生も、そしてそれを見守る保護者の方々も、志望校への想いが日ごとに強まっていることと思います。「第一志望校に合格したい」。その一心で机に向かう時間は、尊く、そして張り詰めたものでしょう。
そんな中で、どうしても後回しにされがちなのが、いわゆる「滑り止め」や「併願校」と呼ばれる大学の対策です。
「本命の勉強で手一杯だから、そこまで手が回らない」 「実力的には余裕があるはずだから、特別な対策はしなくても大丈夫だろう」
そうした声が聞こえてくるのは、とても自然なことです。限られた時間とエネルギーを、一番行きたい大学に注ぎたいと願うのは当然の心理ですし、実力差がある大学に対して「基礎力があれば解けるはず」と考えるのも、論理的な帰結と言えるかもしれません。
しかし、入試の現場に長く携わっていると、少し違った景色が見えてくることがあります。それは、大学入試というものが、単なる「知識量の測定」だけでは決まらない、独特の側面を持っているという事実です。
今回は、併願校の過去問演習が持つ意味について、少し視点を変えて整理してみたいと思います。
大学ごとに異なる「問い」の作法
私たちが普段「偏差値」や「難易度」というひとつの物差しで並べている大学たちも、一歩その中身に踏み込んでみると、まったく異なる個性を持っていることに気づかされます。
たとえば英語の試験一つとっても、長文読解が中心の大学もあれば、文法や語彙を細かく問う大学もあります。あるいは、国語の試験において、現代文の文章量が非常に多い大学もあれば、漢字や知識問題の比重が高い大学もあります。
さらに踏み込むと、設問の「聞き方」や「癖」にも、大学ごとの色が色濃く出ます。 ある大学では、受験生を丁寧に正解へと導くような誘導形式の問題が出される一方で、別の大学では、思考のプロセスを自ら組み立てなければならない記述式の問題が出されることもあります。
これらは、難易度の高低とは別の話です。たとえその大学が、受験生の実力よりも入りやすいとされる大学であったとしても、出題形式が独特であれば、そこで足踏みをしてしまうことは珍しくありません。
それは、初めて訪れる土地で地図を見るような感覚に似ているかもしれません。どんなに歩く力(学力)があっても、その土地特有の道路標識や地理感(出題傾向)を知らなければ、目的地にたどり着くまでに余計な時間がかかってしまったり、思わぬ迷い道に入り込んでしまったりすることがあるのです。
「知識」よりも「慣れ」がものを言うとき
入試問題において、知識はもちろん大切ですが、それ以上に「慣れ」が結果を左右する場面は多く存在します。
特に顕著なのが、時間配分の感覚です。 「制限時間60分で大問が4つ」という構成を、事前に知っているのと知らないのとでは、試験中の心の持ちようが大きく変わります。過去問を通して「この大学は、後半の長文に時間がかかるから、前半はスピーディーに進める必要がある」という感覚を肌で知っていれば、時計を見ながら焦ることも少なくなります。
また、問題文の指示や誘導の流れに乗れるかどうかも、慣れの影響を受けやすいポイントです。 独特な出題形式を持つ大学の場合、初見では「何を問われているのか」を理解するのに時間がかかってしまうことがあります。しかし、一度でも過去問に触れていれば、「ああ、このパターンね」とスムーズに問題に取り組むことができます。
このように、過去問演習は、単に点数を取るための練習というだけでなく、その大学特有の試験スタイルという「リズム」を身体に馴染ませるプロセスとも言えるのです。
入試会場での「落ち着き」を作るもの
「滑り止めだから大丈夫」という安心感は、時に本番での落とし穴になることがあります。 多くの受験生が、第一志望校の対策には万全を期して臨みます。しかし、併願校に対しては「地力でなんとかなる」と考え、形式の確認程度で済ませてしまうケースも少なくありません。
そして迎える入試当日。 独特の緊張感が漂う会場で問題冊子を開いた瞬間、予想もしなかった形式の問題が目に飛び込んできたら、どうなるでしょうか。 「あれ、思ったより難しい」「形式が変わっている」「時間が足りないかもしれない」 そんな小さな動揺が、本来の実力を発揮する妨げになってしまうことがあります。
一方で、事前に過去問演習を通してその大学の「顔」を知っていた受験生は、同じ状況でも違った反応を見せます。 「やっぱりこの形式か」「例年通りだな」「ここは難しいから後回しにしよう」 この「知っている」という感覚が、入試会場という非日常の空間において、受験生に大きな落ち着きをもたらします。
試験当日の心の安定は、精神論だけで作れるものではありません。具体的な準備と、そこから得られる予測可能性こそが、緊張を和らげる大きな要因となるのです。
過去問演習を通して得られるもの
こうして考えてみると、併願校の過去問演習に取り組む意義は、「合格点を取るため」だけにとどまらないことが分かります。それは、未知の相手(大学)を知り、その相手との対話の仕方を学ぶ時間です。
たとえ第一志望ではなくても、その大学が用意した問題には、大学側からのメッセージが込められています。「こういう学生に来てほしい」「こういう力を問いたい」という意図が、問題の端々に表れています。 過去問に向き合うことは、そのメッセージを受け取り、試験当日に慌てずに対話をするための準備と言えるでしょう。
もちろん、全ての併願校に対して、第一志望校と同じだけの時間を割くことは物理的に難しいかもしれません。しかし、たとえ数年分であっても、あるいは一度だけでも、時間を計って真剣に取り組んでみることで得られる「感覚」は、何物にも代えがたい財産となります。
それは単なる点数や判定の結果だけではありません。「自分はこの大学の試験形式を知っている」という事実そのものが、受験本番を支える小さくとも確かな自信へと変わっていくのです。
静かに、着実に準備を整える
受験勉強は、第一志望校合格という高い山を目指す登山のようなものです。その道のりにおいて、併願校の受験は、足元を固めるための大切なステップです。
「滑り止め」という言葉には、どこか軽く扱うような響きが含まれているかもしれません。しかし、どの大学の入試問題も、作問者が知恵を絞って作り上げた一つの作品です。その一つひとつに対して、敬意を持って向き合い、その特徴を理解しようとする姿勢は、巡り巡って受験生自身の「試験に向き合う力」を底上げすることにつながるのではないでしょうか。
焦りや不安が募る時期だからこそ、目の前の一問、一回の演習を大切に。 結果がどうあれ、準備をしたという事実は決して裏切りません。着実に、入試という舞台への準備を整えていく。そんな落ち着いた歩みが、春の笑顔につながることを願っています。
(akamon lab) 2026年1月28日 21:10


























