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学習や日常生活の中で「集中力が続かない」「すぐに忘れてしまう」「話を最後まで理解できない」といった悩みを抱える人は少なくありません。これらの課題には、実は“ワーキングメモリ”と呼ばれる脳の機能が深く関わっていると考えられています。
この記事では、ワーキングメモリの基本的な役割や、他の記憶システムとの違い、そして実生活でどのように育てていけるのかを詳しく解説します。
ワーキングメモリ(作業記憶)とは、脳内で一時的に情報を保持しながら同時に処理する能力のことを指します。これは、パソコンにたとえると「メモリ(RAM)」のような存在で、必要な情報を短期間だけ保存しつつ、それを基に判断や行動を行うという非常に重要な役割を担っています。
たとえば、人と会話をするとき、相手の言ったことをその場で覚え、文脈を理解しながら適切に返答する。この一連の動作を可能にしているのが、まさにワーキングメモリです。読書や文章の読解、料理の手順を考えるときもこの機能が活用されています。
ワーキングメモリの働きが弱いと、以下のような日常の困りごとが増える傾向にあります:
物を忘れやすい(例:学校や職場に必要な持ち物を忘れる)
物をよく無くす(例:メガネや鍵の置き場所を思い出せない)
話を聞いても内容が頭に入ってこない
説明を聞いてもすぐに理解できず、何度も聞き直す
このような傾向の背景には、「情報を一時的にとどめておく力」と「必要な情報だけを選んで処理する力」が十分に働いていないことが挙げられます。つまり、ワーキングメモリが適切に機能していないと、情報の取捨選択がうまくいかず、混乱したり抜け漏れが生じたりするのです。
「忘れ物が多い子ども」は、単に注意散漫なのではなく、そもそも“何が必要なのかを整理する力”が育っていない場合があります。たとえば、学校に持っていく道具の目的や使い方が明確に理解できていないと、準備の際に必要性を感じられず、忘れてしまうのです。
また、保護者が手助けしすぎると、子ども自身が「なぜその道具が必要なのか」を考える機会を失ってしまい、結果的に物の重要性が理解できず、忘れ物を繰り返してしまうという悪循環に陥ることもあります。
記憶には大きく分けて「短期記憶」と「長期記憶」があります。そして、ワーキングメモリはこの短期記憶と関係が深いのですが、同一のものではありません。
短期記憶:数秒から数分程度、限定された情報だけを一時的に保持する。たとえば、電話番号を覚えている間にメモするような記憶。
ワーキングメモリ:情報を短期間保持しつつ、それを活用して思考や判断、行動に活かす。単に覚えるだけでなく、処理する機能を含んでいます。
長期記憶:何度も繰り返された情報や強く印象づけられた出来事が保存され、長期間にわたり思い出すことができる記憶。
ワーキングメモリは、短期記憶から情報を取り出し、それを使って問題解決や意思決定を行うための“操作台”のようなものといえるでしょう。
ワーキングメモリを強化するには、脳と身体を同時に使う活動が効果的だといわれています。以下は日常に取り入れやすい例です:
折り紙やあやとりは、完成形を思い浮かべながら順を追って手を動かすため、自然と頭と手の連動が求められます。
工作も自由な発想で手を動かしながら目的を考えるプロセスが、ワーキングメモリを刺激します。
本を読む際には、「文章の内容を理解しながら先へ読み進める」という作業を無意識に行っています。これもまた、記憶しながら処理する訓練になります。特に登場人物が多い小説などは、登場人物の関係性や背景を整理しながら読まなければならないため、ワーキングメモリにとって非常に良い刺激となります。
覚えたい単語や情報を、絵やストーリーに変換して思い浮かべるトレーニングも効果的です。このように視覚的なイメージと結びつけることで、ACC(前帯状皮質)という脳の部位が活性化され、記憶の定着が促進されると言われています。
近年の研究では、「ワーキングメモリ自体の容量は簡単には増えない」とする説が有力です。あるゲームや課題で上達しても、その成果が別の分野に転用できるわけではないことが確認されているのです。
つまり、「ゲームで記憶力を鍛えたから学校の勉強にも効果がある」とは言い切れないということです。ただし、複数の能力を刺激する活動を継続的に行うことで、認知全体の底上げにはつながるとされています。
実際の学習場面でも、ワーキングメモリは非常に重要です。以下のような工夫で、勉強がより効果的になることが知られています。
漢字を声に出しながら書く:視覚・聴覚・運動感覚を同時に使うことで、記憶が定着しやすくなります。
英単語を使った例文を考える:単なる暗記ではなく「使い方」を意識することで、より深く記憶されるようになります。
図や絵を描いて整理する:図解を用いて情報を構造化することで、複雑な内容も理解しやすくなります。
学力だけでなく、生活全般においてもワーキングメモリは重要な役割を果たします。以下のような行動も、記憶力や認知力を高める助けになります。
料理や掃除をするときに「手順」を頭で考えながら行う
買い物の際にメモを使わず、必要なものを頭の中で整理して覚える
食事中によく噛むことで脳を活性化する
人との会話を意識的に楽しむ
これらの活動は、特別な道具やスキルが必要なわけではありません。毎日の暮らしの中で、自然にワーキングメモリを刺激することができるのです。
ワーキングメモリは学習だけでなく、私たちの生活そのものを支える大切な脳の機能です。一朝一夕で変わるものではありませんが、地道な積み重ねによってその働きを高めていくことは可能です。
「覚えるのが苦手」「集中が続かない」といった悩みがあるときこそ、ワーキングメモリを見直してみてください。学びを支える土台を整えることで、子どもも大人も、自分のペースでよりよい成長を実感できるはずです。